相続、といえば皆さん何を思い浮かべるでしょう?

財産がある人の話。

遺産分けに揉めている人の話。

そう思う人も多いのではないでしょうか。

たしかに、そういう場合が多いことも事実です。しかし、相続というのは実に身近な問題で、一生に一度や二度は必ず自分の身に降りかかってくるものなのです。

以外に財産が少なくても、面倒なこともあるのですよ。

少し分かりやすいように、実際のケースをもとにお話をしてみましょう。

 

相続というのは、人が亡くなって初めて発生します。

民法という法律の中に

「相続は、死亡によって開始する。」と書かれています。

けれども、中にはまだ亡くなる前から気を揉む方も居るのですね。

 

Yさんご夫婦にはお子さんがおりませんでした。

主たる財産は住んでいる家、そして土地のみです。しかしこの土地は、Yさんのお父さんからYさんへ昔贈与されたものです。

Yさんの兄弟姉妹は、長男であるYさんが親の面倒をみる、という了解の元、この土地の件は納得していたのですが、結局Yさんは親の面倒をみることはなく、代わりにYさんの弟が親の面倒をみていたのです。

そのためか、Yさんの兄弟姉妹の仲は少しぎくしゃくしていました。

Yさんは、自分が亡くなった後の奥さんの生活をとても心配しておられました。

法律のことは分かりませんでしたが、自分なりに勉強して、子供がいない夫婦の場合、配偶者とともに兄弟姉妹も相続人になる、ということは理解しました。

それは、大変です。

自分の家が、奥さんにすべて相続される、そんな保証はないのです。

Yさんはとても心配して、自分にもしものことがあった時はみんな放棄してくれ、それは当然だろう?と兄弟姉妹に常々言っていました。

 

しかし、Yさんは知りませんでした。

「相続放棄」の正しい意味を。

相続放棄。これは、正の遺産、負の遺産、全ての権利を放棄することを意味し、正しくは相続が発生してから(つまりYさんが亡くなってから)、相続人がそれぞれ自分の負担で家庭裁判所で手続きをすることいいます。

私は相続のご相談を多く受けていますが、「放棄」という言葉を使われると、不快感を表す相続人が大変多いのはよく経験するところです。

Yさんは、そのことを知らず事あるごとに兄弟姉妹に「放棄してくれよな」と繰り返していましたが、皆密かに不快に思っていたことは間違いありません。

「だって、親からもらった土地で、それも親の面倒をみるという約束は果たしていないのに、なんで頭から放棄せよ、と言われなくてはならないの?」と。

 

年月が経ち、Yさんはお亡くなりになりましたが、その後の相続はどうなったかと言いますと…

相続人の一人がどうしても判をつかず、土地の登記の手続きは止まったままです。

代わりに支払う現金でもあればまだ良かったのでしょうが、主な財産は不動産のみですので、どうしようもありません。

Yさんはどうしておけばよかったのでしょう。

それは、「遺言」です。

遺言書を作成し、その中に、奥さんにすべてを相続させる、と書いておけばよかったのですね。

でも、本当の問題は違うところにあったのかもしれません。

相続はとても感情が入ってくる問題です。

Yさんが「親をみる」という兄弟姉妹との約束を守っていれば…

生きているときから相手に「相続放棄」を迫らなければ…つまり、自分の主張を通すことに腐心していなければ、相続人の感情も少し違ったものになっていたかもしれません。

 

私はご相談を受けるうちに、

言葉一つで相手の心が違ってくる場面を多く見てきました。

相続は法律すべてでもありません。

その人のそれまでの生き方も含めて問われるのかもしれませんね。

 

このコラムの執筆者

shikanai
しかない行政書士事務所 行政書士鹿内美恵子です。
当事務所では相続・遺言のご相談を中心にお受けしています。
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